5th WHEEL 2 the COACHは冬のアルバムだ

マージャム'95、皆さんも好きですよね?

夏休みの昼寝のあとのような雰囲気を湛えた、ありえないほど心地の良いトラック。

DEV LARGEがバックトラック基準で選曲したコンピレーション『MELLOW MADNESS』に収録されていることからも、そのクオリティの高さはお墨付きです。


スチャダラパーをよく知らなかった頃、彼女が夏場に車でかけていて「え、なにこのヤバすぎる曲は」と一発で虜になったのを覚えています。

ジャンルの垣根を超えた、夏の定番曲です。

そんなサマージャム'95のイメージから、このアルバム全体も夏のアルバムだと思われることも多いと思います。

 

しかし、そう思ってアルバムを頭からマジメに聴いてみると、なにか違和感があります。

僕も最初は夏のアルバムだと思ってましたが、よく聴くと『このアルバムは、季節としては冬をイメージしてるんじゃないか?』と感じる。

それで、キチンと歌詞を意識しながら収録曲の内容について精査していくと、やっぱり夏ではなく、冬です。

本稿では、その調査記録(もとい、胡乱な妄想ですが)を以下に開陳します。


ジャケットについて

まず、曲に触れる前に、ジャケットがどんなだったかを見てみましょう。


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これです。


どう見ても夏の格好ではありません。

CDケースを開けてブックレットの裏側を見るとわかりますが、木が完全に枯れています。

「夏ではない」どころではなく、冬そのものです。

ここでまずひとつ冬要素が入ってきます。


『AM0:00』

この記事の趣旨と関係ありませんが、このインストはマジでヤバすぎます。

あり得ないくらいカッコいい。

奇跡のトラックだと思います。

このアルバムは『AM0:00』から始まって『AM8:30』で終わるという構成なので、さぁ今から夜更かしだ、という導入部分の曲です。

アルバム全体としてはおちゃらけたテーマの明るい曲が多い中、このインストのおどろおどろしさは何でしょうね。


『B-BOYブンガク』

この曲は初っ端で冬要素が入ってきます。


「やっとペンを握ることができた 何年も眠ってたみたいだ 冬を照らすオレンジの街灯が 俺たちの体を暖めた」


冬です。


それから、

「白い息とともに吐き出される パート2のようなフレーズ」

アスファルトに熱を奪われちまうと 俺まで縮こまって唸って逆らうのも辛く ただ春を待つ」

「寒くない冬などない」


と、冬をイメージさせる歌詞が散見されます。


『ノーベルやんちゃDE賞』

この曲はとくに冬要素なし。

BoseとANIが司会者ポジで式典がスタートし、2人で受賞者の紹介をつらつらと述べ、最後はANIがコマツノブロウなる人物に扮してスピーチをする、という構成になっています。


南極物語

この曲にもとくに冬要素はありません。

バイトに行くor行かない、自分たちの曲の売れ行き、BoseがANIに紹介した女の子のこと、今日の会話で失敗した所の反省といった日常の一コマについて、「結局のところ……」でトピックを締め括るという、ただそれだけの曲です。


『5th WHEEL 2 the COACH』

この曲にも季節を感じさせる要素は見られませんが、「夜中にやってんだな」というアルバムのコンセプトについては言及されています。

 

「さあ 仔猫ちゃんを寝かしつけたらまた 再開だ夜中から朝 タイムカードもない逆9 to5」

 

直球で昼夜逆転夜型人間の詩です。


サマージャム'95』

一旦、このアルバム全体がどういう構図で作られているのか、僕の持論を説明します。

このアルバムは、『AM0:00』で冬の夜が始まって、そこから製作のために夜更かししてるSDPメンバーの様子を描いたものだと考えています。

『B-BOYブンガク』でマジメに製作スタート。

歌詞の内容は結構シリアスめで、スチャダラパーにしてはちゃんと格好がついている。

『ノーベルやんちゃDE賞』はテレビです。

「夜中にこんな変な番組やってたよ」という、製作途中でたまたま見たテレビ番組というコンセプトの曲だと思います。

南極物語』は製作過程で物思いに耽る様子。

シリアスな心情の描写がなく、過去の思い出の話ばかりです。

『5th WHEEL 2 the COACH』でまた製作に戻り、この『サマージャム'95』で寝てしまいます。

サマージャム'95』は、これまでの曲(というか、このアルバムの他のすべての曲)と違い、思いっきり夏丸出しの曲です。

 

僕は『サマージャム'95』は、「冬の深夜に寝落ちしてしまって夏の夢を見ている」という設定の曲だと考えています。


『ジゴロ7』『ドゥビドゥWhat?』

この辺はとくに冬というか、季節感要素はありません。


『The Late Show』

遅刻をテーマに据えた曲で、タイトルがダブルミーニングになってますね。

 

「刺すようなとはよく言ったこの寒さ息も白かった」

「ガードレールに触れた手がひんやり」

 

あたりで季節について言及しています。


『From喜怒哀楽』

「冗談みたいな暑さのあの夏の前だ」と季節について言及している箇所がありますが、あくまでも過去の思い出話なので、現時点での季節とはあまり関係なさそうです。


『ULTIMATE BREAKFAST & BEATS』

『AM0:00』に続いて記事の趣旨から外れますが、この曲の魔力も凄いです。


科学的には振動の一種に位置付けられる「音」という現象の中でも、音色という概念についての研究は、音の基本的な性質と比べて謎が多いらしいです。

音色を、聴覚以外の感覚器官から受け取った情報の待つイメージや、単純な感覚器官の受信号よりももっと複雑な感情や記憶・体験に結びつけるというのは、ひとえにセンスの賜物だと思います。

そんなアブストラクト極まりない作業領域の中で、「徹夜明けの謎の達成感と、冬の朝陽が織りなす玄妙なグラデーションの美しさと、これから始まる1日の低クオリティを想像したときの絶望感と、シンプルな体のクソダルさ」がインストで一挙に表現されていて、本当にすごいと思います。

浮かんでくる情景や想起される感覚があまりにも鮮明すぎるせいで、聴くとリアルにダルくなってくるので、普段はあまり聴いていません笑。


『AM8:30』

朝の8時半になり、一連のシークエンスが終了します。

『AM0:00』からドラムが抜け落ち、夜が始まるという高揚感ではなく、「俺たち何やってんだろう」みたいな奇妙なウンザリ感が出ています。


まとめ

サマージャム'95の人気が独り歩きしすぎて夏のイメージばかりが先行していますが、僕は上記の通り、このアルバムが想定している季節というのは本当は冬なのではないかと思っています。

ちなみに、ここまで言っておいてなんですが、事実がどうであれ、僕はこのアルバムは夏に聴くのが好きです。